『ものをよく見て、描こう。』という写生は、絵を描く力の土台になります。
美術系大学を受験した人間は,デッサンすることは実技試験にあったりするので,写生は「苦行」と思ったりしていますが,子どもは意外に「自由に描こう」という方が苦手で,写生はかえって取り組みやすい課題と思っているお子さんが多いようです。
写生はおえかきの基本なので、一般の絵画教室でも力をいれて取り組まれていることでしょう。むしろ写生をメインに繰り返しているところも多いかもしれません。図工ランドでも、もちろん大事にしている課題です。ただ、図工ランドでは、ストイックな写生でなくてはダメ!ということはありません。こどもたちは、年齢に応じて、見て発見したことを絵にしていきます。またそこから自由にイメージを拡げていくことも、こどもたちにとっては自然なこと。そうした気持ちを大切にしていくのが、図工ランドの考え方です。
こちらはおもちゃの写生です。恐竜のフィギュアがいくつかあれば、それらが闊歩する場面を描きたくなりますし、(恐竜たちの井戸端会議に見えますね。何を話しているやら)ダンプカーのおもちゃを描くと、車の前には道路がのび、荷台からは土が地面に落とされています。こどもってすばらしい。図工ランドでは、そうした拡げ方を「いいね!」「おもしろいね!」と積極的に応援していきます。描くことの楽しさを抑えるような指導はしません。下の回には夏らしい(?)モチーフを集めて写生しました。組みモチーフもあって、大きい子はそれを描いてもよいのですが、いろいろある中から自分で組み合わせて画面を構成してもOKです。きれいなボトルからは、ワインかジュースでしょうか、あふれ出す液体がグラスに勢いよくダイブしています。すごい迫力です。もちろん、しっかりと写実的に描いていくこどもたちにも、ていねいに指導していきます。
写生のカテゴリーの中でも、何を描くか、どんな画材で描くかによって、毎回いろいろな挑戦をしていきます。図工ランドのおえかきでは、基本の画材は鉛筆、クレヨン、学童用絵の具です。だいたいの場合は、それらの中から年齢や好みに応じて自由に組み合わせて描きます。
木炭画に挑戦することもあります。消す材料としてパンを用意したので、みんな興味津々。木炭は指で直接消したり描いたりする身体性の高い画材なので、こどもには向いていると思います。手も顔も、さらに鼻をかむと黒くなりますけど。柔らかさが魅力なのか、「あれまたやらないの?」という声も聞かれます。もっと頻度を増やしてもいいかもしれません。
かたや鉛筆や色鉛筆は理知的な画材で、これはこれでまた年齢による差が出るのもおもしろいところです。カリッと描けるので、堅い道具類を描くのに向いているようです。
モチーフは自然物も人工物も取り上げていきますが、特筆すべきモチーフとして「自画像」があります。鏡を見ながら自分の顔を描く自画像は、私たちや親御さんにとっては、とても魅力のあるテーマ。できれば定期的に実施し、成長の過程を見たい、と思うわけですが、そんな大人の勝手な思惑は、当事者であるこどもたちには、あまり評判がよくありません。
それでも小さい子は喜んで描いてくれることが多いのですが、小学校高学年になってくると、特に女子からは拒絶反応が大きい課題なのです。そのため、図工ランドではしばらく封印していたのですが、昨年ひさしぶりに登場させたところ、このようにすばらしい自画像がたくさん生まれました。う〜ん。これはまたやってみたくなりますね。
毎回「写生かあ、やだな〜」などと言う割に、実はこどもたちは写生が大好き。みんな「めんどくさい」とか「どれが簡単かな」と言いながら、楽しそうにモチーフを選び、集中して描いています。大きい子はていねいに描くので数は少ないですが、小さい子たちは次はこれ、その次はこれ、とどんどん描いていきます。いろいろな野菜の形や色を、それぞれちゃんと見て描いているのがわかります。「全種類描いた!」と胸を張る姿も頼もしい。そんなみんなの(自覚してはいませんが)「写生が好き」という気持ちに応えられるよう、次はどんなモチーフをどんな画材で描いてもらおうか、毎回知恵を絞る図工ランドでした。