C-07平面-おえかき力向上

絵を描くコツ? そういったものがあればよいのですが・・・,図工ランドではこれまで模索してきて,少しわかってきました。

絵を描きたい気持ちをサポートするカテゴリーです。中にはぐんぐんぐいぐい、いくらでも描ける子もありますが、描きたいけど、どう描いていいかわからない、難しそうで手が出にくい、といった子もけっこう多いのです。保護者の方からも,うちの子どうしたら絵が得意になりますか,といったご要望もひしひしと伝わってきます。

図工ランドでは、そうした絵を描く際の悩みや不安を、少しずつでも取り除き、絵を描きたい気持ちに寄り添う手法はないか,長年模索してきました。

小さい頃は誰でもためらいなく、好きなように描き、それに満足しているものですが、小学校の途中くらいの年齢で、「おえかきの危機期」と図工ランドで呼んでいる時期が訪れます。自分の描いた絵に満足できない、自分はへたくそだ、うまく描けないから描きたくない、という気持ちが出てくる時期です。その結果おえかきをしたくなくなってしまうのは、とても残念なことです。これは眼の発達に手が追いついていないために起こると言われています。鑑賞する力がついているので、絵のうまいへたの基準が自分の中にでき、でも自分にはそれが描けない、ということで絵から遠ざかる。実際そのまま大人になってしまう人も多いのです。それでも問題はないかもしれませんが、絵を描く楽しさを手放さずにいられる方がやはり良いではないか、そのための手伝いができないだろうか、と図工ランドでは考えます。

あっという間に絵がうまくなるような秘策は存在しません。絵はたくさん描くとうまくなる、描かないとうまくならない、ということにつきると思います。でも苦行のように無理に描いてもしかたありません。スポーツと近いと思うのですが、楽しいから描く、うまく描こうとくふうもする、失敗してもまた描く、ということを繰り返していくから、描けるようになるわけです。図工ランドでは、「描くことが楽しい」→「たくさん描きたい」→「うまくなる」→「もっと描きたい」という正のスパイラルを作っていくために、これまであの手この手を考えてきました。必ずしもすべてが大成功というわけではありませんし、人によっても年齢によっても違うのですが、どんな取り組みをしてきたかをご紹介します。

基本的な考え方として、おえかきを支える手と目と頭、それぞれの「力」をつけ、それらの連携を図っていくことを図工ランドではあげています。どんどん描ける手、良く見る目、そして描くための対象や図法の理解。もちろん図工ランドですから、それが楽しくなくてはなりません。

 

まず、目の力。やはり模写でしょう。うまい絵、好きだと思う絵を見て、まねて描く。昔から画家を志す人々、描く力をつけようという人々にとって、模写は練習の王道です。建築科の学生も巨匠の図面をコピー(模写)する,ということを行ったりします。

図工ランドでも、かなり以前に名画の模写を実施したことがありますが、大人と違って名画に興味もなく、見た経験も少ないこどもたちには、あまりそそる課題ではありませんでした。ではどんな絵だったら楽しいだろうか、ということで、絵本の表紙を模写しました。

みんな「これ読んだ」「知ってる」「この本好き」とにぎやか。選ぶのも楽しそうです。始めて見る絵本にも興味津々です。こどもたちが模写する絵本は、自ら絵本を描く人もいる図工ランドの講師たちが、おすすめをたくさん推薦してくれて、楽しい課題でした。

かなり以前に実施した課題ですが、写し絵をしたこともあります。模写ではありませんが、目と手の両方の力をつけようという練習課題になります。トレーシングペーパーを使った写し絵で、こどもたちも気軽におもしろく取り組めました。このときは日本画や浮世絵を選びました。西洋画と違って線の表現が特徴ですので、写しやすい題材かと思います。

若冲の絵を見て,このニワトリがすごい!この波、なんだ!大胆な構図や洒脱な線など、普段のおえかきではなかなか描かないような表現を、写しながら手と目で体験していきました。

どんどん手を動かそうという、手の力の課題では、絵を描くことへの抵抗感をなくし、ハードルを下げて楽しく描くための課題もしています。こちらは「つながる絵」。小さい紙を使って、描いていきます。

ポイントはとにかくたくさん描くこと。自分の好きなものの図鑑やカタログにしても良いですし、長い絵や大きな生き物なども良い、絵本のようにストーリーを作っても楽しい、という課題です。上の写真の海の絵では、水面からいろいろな海のサカナや生き物が現れてきて、最後の深海にはなにか大きな生き物が登場しました。海にいるのはこれとあれ、と描いていくうちに、そうだ、深いところには不思議な存在がいるかも、となったのです。これぞ手で考える、ですね。昔ランド長が所属していたデザイン事務所ではプロジェクトのスタート時点で,みんなが集まって沢山アイデアスケッチをして,デザインの方向性を決めていました。そういったデザインの現場でも使われている手法です。

こどもたちが気楽に、しかも喜んで取り組んでくれるのではないか、ということで4コママンガに挑戦したこともあります。

こちらも楽しそうに描けています。手の力をつける課題では、勢いが大事、どんどん描いてほしいです。

最後にご紹介するのは、頭によって理解したことを生かして絵にしていこうという頭の力の課題。まずは苦手とする子がけっこう多い、「人を描く」というテーマ。「人を描くのはヤダ。棒人間なら描くけど?」という子が実はとても多いのです。小さいうちは悩まずに描いていても、ひとりひとり顔かたちも違い、様々な動きをしている人間をリアルに描くことは、実はとても難しいこと。そんな悩みに少しだけ寄り添ってくれるのが、下の写真でご紹介するポーズ人形、「ポーズさん」です。本格的な人体の動作を確認するには、立体のポーズ人形がありますが、こちらはその平面版です。自分で作り、様々なポーズをさせてみて、それをもとにいろいろな動きをしている人を描きました。下の課題ではポーズさんの影響で、みんなやや身体が硬い人になっていますね。(次は胴体を柔らかい素材で作ってみたいです。)

遠近法も「おえかきの危機期」の子がぶつかる壁のひとつ。立体感や奥行きの表現です。こどもにも理解しやすい原則を確認して、絵に生かそうというねらいで実施しました。教室には、一点透視、二点透視などの図法の絵も貼っておきましたが、これらはある程度高学年の、興味のある子のため。講師たちが伝えたのは、「近くのものは大きく、遠くのものは小さい」(透視図法の原則)と、「近くのものははっきり、遠くのものはかすむ」(空気遠近法の原則)の2点だけ。地平線・水平線についても「空と陸(海)の境目」として紹介しました。絵の中に奥行きが生まれると、大きな風景が描けて、それまでよりもたくさんのことが表現できるようになります。かなり難しい課題でしたが、それぞれの年齢に応じて消化し、すてきな絵にしてくれました。

描く対象の理解を深める、ということも大事です。1度にあれもこれもはできないですし、事細かな講義や解説もつまらないですので、テーマを絞り込み、原則だけを伝える形で課題にしています。この課題は「木を描こう」。根・幹・枝・葉や花という基本的な構造と、下から上に育っていくというなりたち。この2点を意識してもらいました。

人や動物が集まり、様々な花や実をつける、豊かな木がたくさん描けました。

まさに手を変え品を変え、様々な方法で挑戦してもらう、というこの「おえかき力向上」のカテゴリー。秘策はないと申しましたが、実はそれに一番近いものは、あります。それは、おうちの人が喜んでくれることです。最後にこんなことを言うと、じゃあ今までのあれこれは何だったの、になりそうですが、おうちの人がほめてくれる、自分の絵を喜んで、いいねと評価してくれる、これが一番効くような気がします。認めてもらえると、こどもは「私は絵が得意」という自信と、自分の作品を愛する気持ちを獲得できます。得意と思えば、少々難しくても挑戦でき、できあがった作品に満足できます。正のスパイラルが生まれ、「おえかきの危機期」を乗り越えていくことができます。(何がもったいないと言って、自分は絵がヘタ、こんな絵じゃだめだ、と思い込んでしまうことほど残念なことはありません。描けなくなるからです。)

そのためにも、私たち講師をはじめ、こどもの周りの大人の皆さんには是非、こどもの絵を肯定してほしい、こどもの描きたかったものに寄り添い、共感して、認めてほしいと思います。こどもたち自身が自分と自分の絵を肯定できるように。こどもの中にある才能が、大きく育っていくことができるように。

図工ランドの「おえかき力向上」では、これからも絵を描くためのいろいろな「力」を獲得してもらい、こどもたちが絵に対して前向きになれるよう、少しずつですが支えていきたいと考えています。

 

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